大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和24年(新れ)562号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人長谷川勉上告趣意第一点について。

第一審第三回公判調書に「公開をしたこと又は公開を禁じたこと及びその理由」が記載されていないことは所論のとおりである。それ故第一審の公判調書作成手続は記載事項を遺脱したもので明らかに刑訴四八条二項刑訴規則四四条四号の規定に違反しているものといわなければならない。しかし、刑訴五二条は「公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは、公判調書のみによってこれを証明することができる」と規定しているのであるから、逆に右公判調書に「公開をしたこと」が記載されてないからといって、直ちに所論のごとくその公判手続は公開されなかったと速断するを得ない。本件では公開したか公開をしなかったかは何等公判調書に記載されていないのであるから、公判調書以外の資料でこれを証明することができるわけである。そして、刑訴三七七条によれば、審判の公開に関する規定に違反したことを理由として控訴の申立をした場合には控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならないものであって、この規定は刑訴四一四条により上告審にも準用されるのである。しかるに、前記公判調書には被告人その他訴訟関係人において異議を述べる等公開をしなかったことを推認すべき記載がなく、原控訴趣意書にも公開をしなかった旨の主張及び立証がなく、また、本件上告趣意書にもその点につき何等の証明保証書をも添附してないから、本論旨は、その前提において不適法として採用し難く、また同四一一条を適用すべきものとも思われない。

同第二点について。

記録によれば本件(昭和二四年三月二九日起訴)第一審の審理及び裁判は判事補服部一雄が一人でこれをしたものであること並びに判事補の職権について裁判所法及び訴訟法上制限のあることは所論のとおりである。しかし、同判事補は昭和二三年法律一四六号判事補の職権の特例等に関する法律一条の規定により同年一〇月五日当裁判所から判事の職務を行わしめる者に指名された判事補であることは当裁判所に顕著な事実である。そして刑訴四八条、刑訴規則四四条によれば公判調書には裁判官の官氏名を記載すれば足りるものであるから、公判調書上同判事補が判事の職務を行う職権を有することを特に記載する必要はなくその他記録上これを明らかならしめなければならないものではない。

されば、本論旨もその前提において採用し難い。

同第三点について。

所論前段は、第一審判決の認めなかった前科のあることを主張して第一審判決が累犯加重の手続に出なかったことを審理不尽又は判例違反でありこれを是認した原判決も違憲又は違法であるというのである。しかし、かかる第一審判決の認めなかった被告人に不利益な事実を新に主張することは、被告人のためにする上訴理由として是認することはできない。されば所論はその前提において明らかに刑訴四〇五条所定の上告適法の事由となし難い。

次に所論後段は量刑不当の主張であるが当裁判所は本件では刑訴四一一条を適用すべきものと認めることはできない。

被告人本人の上告趣意について。

所論は、第一審判決の認めた窃盗既遂は犯意なく未遂であり、且つ刑の量定が甚だ不当であるというのである。されば、明らかに刑訴四〇五条に該当しないし、また、同四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって刑訴四〇八条、一八一条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例